定年退職。司法試験合格にすすむ。11 叔父
叔父が他界して14年。
大学進学のため上京する際、地元の空港まで車で送ってくれたのは叔父だった。昭和3年生まれ、家業を小学生から手伝わされ、商売人に学問は必要ないとの祖父の方針で小学校も満足に通えなかった。なんとか誰かしらの取り計らいで、中学にはすすませてくれたそうだ。
その後、祖父に内緒で地元医専を受験、一次試験の合格通知で受験がバレ万事休す。その後世を儚んだこともあったらしい。凡人月斗の記憶の中では、月斗の父を助け家業に精を出す姿しかない。
叔父はさまざまな人の話で聞くところでは、相当優秀だった由。その息子(凡人月斗のいとこ)も血を引いており優秀で、医師になって欲しいと思っていたようだ。そんな想いからか、地元医学部の医学祭にはかかさず伴って行っていた。
凡人月斗も一度同行した。さまざまな展示があった。内臓の検体まではよかったが、体中に血で赤く染まったチューブを何本も通され、不安気な眼をして立っている自由の許されない犬の姿をみてしまった。その時の眼は今も鮮やかに記憶している。人間と同じ感情を持っているのではと思えるような、不安気でうったえるような眼だった。後年、月斗が一時期獣医になることを考える遠因になったのかもしれない。
まそんな叔父に空港まで送られるなかで、月斗の頭の悪さはわかっていたはずだが、叔父がポツリともらした。◯護◯になるんだよな、と。おそらくは職業選択が許されなかった自身の過去、目の前にいる甥は頑張りさえすれば未来がひらける環境下にいる、奥底にしまっていた懊悩の記憶から自然とついてでた花向けの言葉だったのかもしれない。
その叔父の言葉は、当時凡人月斗の心に届くことはなかった。
ま何はともあれ、晩年の記念(笑)に全く持って不向きな分野の試験にいまむかっている。いつまで続くやら。